花とゆめコミックススペシャル 全5巻
作者:樹なつみ
出版社:白泉社
初出時期:1988年(LaLa)
分野:少女マンガ
ジャンル:SF・近未来
内容:
核戦争後の荒廃した世界で、伝説の科学都市「OZ」の存在を探し求める中、
人間と機械であるサイバノイドの関わりあいが描かれた、近未来SFアクション大作。
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時は西暦2021年、突然起こった第三次世界大戦により、地上は壊滅的な状態となります。
世界は混乱の時代を迎えると言う、まあありがちな設定から始まるわけですが、
その後からがこの作品の素晴らしいところだと思います。
ハリウッド映画でも見ているかのような壮大なスケールで、SFとしても秀逸なストーリーが展開していくのです。
ともかく面白いです。
少女マンガ誌での連載だったけれど、男性にも十分に満足できるSFアクション作品だと思います。
相変わらず樹なつみ氏の作品は、
表紙や細かいところまで全体にわたってデザイン的にもとてもセンスの良い作りになっていると思います。
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この作品のポイントとなるのが、限りなく人間に近い「サイバノイド」の存在でしょう。
その昔、アメリカの映画で「2001年宇宙の旅」の中に登場するコンピュータ「HAL(ハル)9000」は、
人工知能的に進化したコンピュータの反乱の象徴ともなっています。
この作品に登場する「1019、1024、1030」と名づけられたサイバノイドたちも、
人間たちとの係わり合いの中で、自身が人間とは違うという存在に苦悩し、与えられたプログラムと葛藤していきます。
手塚治虫氏の永遠の名作「鉄腕アトム」や、石ノ森章太郎氏の「サイボーグ009」なども、
主人公たちは人間とは違っていることの存在に悩みます。
しかし彼らは人間のために働き、戦い続けます。
現時点ではではヒューマノイド型ロボットの登場はまだまだ先かもしれないと感じますが、
こういったコンピュータやロボットなどの反乱的なSFは、
次々と進化していく現代社会でのコンピュータの存在を見ていると、
まんざら架空のことでもないような気になってきます。
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より人間に近いところにまで進化してきたコンピュータは、プログラム以外の行動「感情」と言うものを芽生えさせ、
独自で行動するかもしれないと言うSF作品です。
人間の脳も電気的信号により活動しているのですから、コンピュータとそんなに違わないのかもしれません。
そうしたらコンピュータだってその容量や処理速度がどんどん進化していけば、
突然コンピュータ自身で人間の脳のように、感情というプログラムが芽生えたりすることもあるのかもしれません。
もしかしたら人間の脳にも、「理性」という心を抑えるプログラムが、もともと備わっているはずなのに、
そのプログラムがエラーを起こしてしまって、犯罪などを起こすかもしれない、などと考えることもできるかもしれません。
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最初にこの作品が単行本となったのは1990年で、それから14年後の2004年に「完全収録版」が出版されました。
大幅な加筆修正され、以前のコミックスでは未収録の番外編も収録されています。
1992年には全2巻でOVAが発売され、2003年にはStudio Life公演による舞台化もされています。
(漫画本エッセイ169)
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