サンクチュアリ

小学館文庫 全8巻

原作:史村翔 作画:池上遼一
出版社:小学館
初出時期:1990年(ビックコミック スペリオール)
分野:青年マンガ
ジャンル:政治
内容:裏と表の社会から日本を変えるために立ち上がった二人の男の壮大なロマンを描いた社会派ドラマ。


日本の経済的繁栄がピークとなったバブル経済に、そろそろ陰りが見え始めた頃にこの作品は登場しました。
日本はこのままでいいのかと疑問を抱く二人の青年、北条彰と浅見千秋がこの作品の主人公です。
北条は暴力団という裏社会に身を置き、浅見は国会という政治の表舞台から日本という国の在り方を根本的に変革するために立ち上がります。
特にこの二人の生い立ちは、平和ボケといわれる日本人には想像を絶するものとなっていますが、世界では実際に起こっていることなのです。
日本人はもっと世界のこういった部分にも目を向けていかなければならないのでしょう。


タイトルの「サンクチュアリ(sanctuary)」とは「聖域」という意味です。
誰の力も及ばない自分だけの世界「聖域」が何処にあるのか。
二人の主人公の中にあるのか。
二人が目指す世界なのか。
それとも二人はその「聖域」を打ち崩すために戦うのか。
そんなことを感じさせながら進む息をもつかせぬ展開は、一気に読み進んでしまう作品です。


劇画という分野で確立されている池上遼一氏のリアル感溢れるタッチは、現実離れしている壮大なストーリーにリアリティーを生み出し、
映画でも見ているようなビジュアルが広がっていきます。
団塊の世代は、60年、70年の安保闘争で、若さのエネルギーが権力の前にひれ伏してしまいました。
それ以降の高度経済成長時代からバブル経済という文字通りの泡のような反映で、日本人は本当の心を見失ってしまったのかもしれません。
少々過激かもしれないですが、確かに現代の日本にはこういった意識改革が今まさに必要なのかもしれません。


近年の選挙は政治不信という理由から、選挙率が落ちる一方です。
この作品の中で、
「選挙は1票という武器を持った有権者も戦いに参加している。使わずに戦いを放棄しては何も始まらない」
という言葉が出てきます。
選挙で投票に行かないということは、日本国民として政治に参加することを放棄してこの国に生活していることになるのではないでしょうか。
いろいろと考えさせられる作品です。

(漫画本エッセイ156)