ダンテ神曲

講談社漫画文庫 全2巻

作者:永井豪
出版社:講談社
初出時期:1994年(描き下ろし)
分野:青年マンガ
ジャンル:宗教
内容:ダンテの「神曲」を描いた、永井豪作品の原点を見ることのできる超大作。


この作品は面白いのかと言われると、ちょっと言葉に詰まるかもしれません。
これはある意味、漫画というよりも何か少し違った特別な作品だと思います。
もちろん絵柄は永井豪氏独特の迫力のあるものになっているわけですが、
題材となったものが特殊なわけで、
13〜14世紀のイタリアの詩人であり政治家のダンテ・アリギエーリの代表作の「神曲」なのです。
そして驚くことに永井豪氏は、このダンテの「神曲」を、
ようやく文字が読めるようになった頃に読んでいると言うのです。
「子供文庫・ダンテの神曲物語」という子供向けに書かれた本だったそうですが、
それにしてもこんな内容の本を、そんな歳で興味を持って読んでいたとは凄いことです。
そしてそこに描かれていた挿し絵は19世紀の天才的版画家、ギュスターヴ・ドレの作品で、
その絵にことさら惹かれていたそうなのです。


題材となったダンテの「神曲」は、地獄篇・煉獄篇・天国篇の三部から成る長編叙事詩で、
日本人には、あまり馴染みのない宗教的要素のものなので、
永井豪氏のこの作品も少し難しい、非常に重々しいものとなっています。
内容的にはダンテが師と仰ぐローマ時代の詩人・ヴィルギリウスの魂の導きで、
地獄を旅すると言うものなのですが、
ダンテはこの作品で、人生における道徳的原則を明らかにすることが目的であると言っているのです。


そんな時代的にも、宗教観やモラル間の違う永井豪氏は、
大変なプレッシャーの中で、この作品を描きあげたのです。
一番苦しかったのは、ダンテがキリスト教以外の宗教を、「悪」と決めつけている事だそうですが、
平均的日本人にとっては、なかなか理解しがたいことでしょう。
しかしそんな部分でも、この作品では永井豪氏の心情が伝わってくるように描かれていると思います。


ともかく、ダンテの「神曲」とドレの絵は、永井豪氏の作品だけでなく、
氏自身にとっても原点であるようです。
この作品を読んでみると、なぜ永井豪氏の絵には、これほどの迫力があるのか、
なぜあんな「デビルマン」のような凄まじいストーリーが生まれたのかが、わかってくることと思います。
他の永井豪氏作品で、どんなハチャメチャな作品であっても、
どこかに人間の業のような醜さ、恐ろしさが感じられるのは、
このダンテの「神曲」が原点となっているためなのでしょうか。
難しい作品ですが、永井豪作品をより深く知りたいと思ったら、
じっくりと読んでみるべき作品ではないかと思います。

(漫画本エッセイ136)