白泉社文庫 全7巻
作者:山岸凉子
出版社:白泉社
初出時期:1980年(ララ)
分野:少女マンガ
ジャンル:歴史
内容:後の聖徳太子である廐戸王子(うまやどのおうじ)の姿が独特の観点から描かれた少女漫画史上に残る不朽の名作。
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ある程度の年齢を召した方なら、一万円札といえば聖徳太子、学校の歴史の教科書でも習ったことと思います。
この聖徳太子、実は教科書で習ったこと以外にも非常に多くの不可思議な逸話があるのです。
皇族の血を継ぐ聖徳太子という名は、奈良時代以降に使われるようになったものです。
当時は厩戸王子と 呼ばれていました。
最近の教科書はこちらの名前が使われているようです。
この「厩戸(うまやど)」という名前にも、何かを想像させられるミステリアスなものを感じます。
さらに常識以上の様々な能力の伝説も伝えられています。
そしてその厩戸王子の血筋は大化の改新の前年にこの世から完全に消え去ってしまいます。
一族とも謎に満ちた生涯を終えているのです。
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これほどミステリアスな聖徳太子こと厩戸王子の生涯をこの作品では、
独自の視点から非常に不思議な世界観で描かれています。
時代的にもそうとう古いこの世界の時代考証も調べあげ、
衣装などをはじめ、細部にわたって描きあげられています。
そんな画面は、思わずこの時代にワープしそうなほどに引き込まれてしまいます。
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この作品は単に歴史を追う歴史小説とはだいぶ異なっています。
厩戸王子は常人以上の才能を持っていたというのは、結構知られていることと思います。
その力が超能力的な力ということになり、
それだけでなく、女というものを嫌悪し、蘇我毛人という男に心を奪われるなどと、
様々な大胆な要素が含まれ、独特の世界に作り上げられています。
作品の冒頭に蘇我氏と朝廷の血縁関係図というのが掲載されているのですが、
それにしてもこれがそうとうに複雑に絡み合っていて、
購読中でも時折このページに戻って見ないと、相関関係がわからなくなってしまいます。
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ラストは少々中途半端に終わってしまった感があるのは私だけでしょうか。
女性でもその容姿に見とれてしまうという廐戸王子が、
歳をとって一万円札の聖徳太子のような風貌になるところまでを描くことは避けたのでしょうか。
個人的には、もう少しその先まで読んでみたかったという欲求に駆られました。
それにしても素晴らしい作品だと思います。
(漫画本エッセイ094)
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