小学館文庫 全15巻
作者:白土三平
出版社:小学館
初出時期:1964年(ガロ)
分野:青年マンガ
ジャンル:時代劇
内容:江戸時代の階級制度の視点からそこで生きる人々の壮絶な世界を描き上げた超大作。
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たいへん古い作品ですが、これはもう、漫画という分野を超えているような作品ではないでしょうか。
漫画というビジュアル表現が使えるメディアという 機能を生かし、
難しく複雑な内容を解りやすく作り上げていると思います。
作者の白土三平氏は、動物の描画も非常に長けています。
季節の中での人間の生活と野生の動物たちの生活を交差させて、生きる厳しさを表現しています。
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カムイ伝が連載されていた雑誌「ガロ」は、この作品の題材や内容、スケールがあまりにも大きすぎたことから、
連載する場所が無かったそうです。
この『カムイ伝』を連載の場とすることが「ガロ」創刊の最大の目的だったそうです。
「ガロ」という誌名も、白土三平氏の作品「やませ」に登場する忍者「大摩のガロ」から取っているのだそうです。
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江戸時代には「士農工商エタ非人」という制度がありました。
主人公のカムイは、最も下級の非人の子として生まれ、その厳しい生活環境の中で育っていきます。
物心ついた時にはその暮らしぶりが嫌になり、一人部落を飛び出してしまいます。
その後、忍者としての教育を受けるのですが、ここでも忍者の人殺しを含めた使命に疑問を抱くようになります。
そして「抜け忍」となって組織に追われる羽目になってしまうのです。
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この本には、もちろん忍者の色々な術や剣法などもふんだんに盛り込まれています。
しかし読み進んでいくと、それだけではないことが分かってきます。
江戸時代の被差別民衆の生き様と、
百姓(農民)を支配するために幕府や藩がとった悪辣な手段をイメージ化しながら、
部落問題を訴えることを一つのテーマとしているのです。
難しい問題をテーマとしていますが、じっくりと読んでみると、
時代劇ドラ マや映画などとは違った、その時代の真実の部分が見えてきて、
とても考えさせられる作品だと思います。
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1969年にテレビアニメ化された『カムイ外伝』は、
『カムイ伝』から主人公の一人であるカムイのみを取り出し描かれたスピンオフ的な作品です。
このアニメは、大元の原作の『カムイ伝』の内容より、だいぶ子供向けになっていると思います。
それでも他のアニメ作品に比べると渋い内容で、子供ながら抜け人の厳しさ、孤独さを感じたものでした。
『カムイ外伝』は2009年に松山ケンイチ主演で実写映画化もされています。
(漫画本エッセイ063)
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